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大阪家庭裁判所 昭和58年(少)21997号 決定

少年 N・K(昭四〇・九・二五生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、公安委員会の運転免許を受けているものの、昭和五八年三月三日から同年五月一日までの間その効力を停止されているものであるが

第一同年三月六日午前一時二四分ころ、大阪市○○区○○×丁目×番×号先道路において自動二輪車を運転し

第二

一  同月一二日午後四時ころ、大阪府箕面市○○××番地先道路において自動二輪車を運転し

二  同日時ころ、業務として前記自動二輪車を運転し、前記道路を○○駅方面から○○方面に向かい時速約七〇キロメートルで進行するにあたり、同所は急角度で右方に湾曲した幅員約六・九メートルの山間道路であるから、道路の状況に応じて十分に減速徐行しハンドル及びブレーキを的確に操作すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、自己の運転技術を過信するあまり、漫然前記高速度のまま進行したうえ不用意にハンドルを右に切つた過失により、自車の安定を失つてこれを横転させたうえ更にそのまま滑走させ道路左端に設置されたガードレールに激突させて自車後部座席に同乗中のA(当時一六歳)を路上に転倒させ、よつて同人に加療約四か月間を要する右脛骨及び腓骨骨折の傷害を負わせ

第三

一  同月二〇日午前〇時ころ、兵庫県伊丹市○○字○○××番地先道路において自動二輪車を運転し

二  同日時ころ、業務として前記自動二輪車を運転し、前記道路を南から北に向かい時速約七〇キロメートルで進行するにあたり、運転中は絶えず前方左右を注視し進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、進路右前方に認めた警察官による自動車検問から逃れようと、右側の警察官にのみ気を奪われ左前方に対する注視を欠いたまま進路をやや左寄りに変更して進行した過失により、道路左側に駐車中の大型貨物自動車の右側面に自車を接触させ擦過したあと、自車を転倒させるとともに自車後部座席に同乗中のB(当時一六歳)を路上に転倒させ、よつて同人に加療約一〇日間を要する左足背、左下腿挫創、左手背挫創の傷害を負わせたものである。

(適用法条)

第一、第一の一、第三の一の各事実につき 道路交通法六四条、一一八条一項一号

第二の二、第三の二の各事実につき 刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号

(処遇の理由)

本件は、免許停止期間中の無免許運転三回と、うち二回は運転中に業務上過失傷害を惹起した事案であるが、この種非行が人の生命身体に対する侵害又はその危険を内容とする点で、それ自体重大であるのみならず、すべて仲間との遊びが目的で無免許運転を反覆したうえ、無謀運転に伴う一方的過失によつて二度も人身事故を起こし、とりわけ第二の二については負傷程度が大きく被害感情も悪いなど、事案内容も悪質重大であり、さらに、第一は多数の暴走族グループ員らとともに大阪市内において大規模な暴走行為を行つた際の非行であり、第三も、暴走行為に参加するためその集合場所に赴く途中の非行であつて、同日の暴走に参加した者は、いずれも共同危険行為罪として警察の取調を受け、あるいは家庭裁判所に事件送致されていることに照らし、背景面の重大さも看過することができない。

ところで、少年は、昭和五六年一〇月一二日に原動機付自転車免許を取得しながら、早くもその五日後に定員外乗車の違反を犯したのを初め、同種違反を繰り返し、この間同五七年二月一日に自動二輪車免許を受けたものの、度重なる違反のため、同年六月一四日から三〇日間免許の効力を停止されることになり、この時は公安委員会の行なう講習の終了により停止期間は二九日間短縮されたのに、処分の日から僅か三日後に指定場所一時不停止の違反を犯し、その後も整備不良車両運転、赤信号無視の違反を重ね、遂に昭和五八年三月三日再度の免許停止免分を受けるに至つたが、免許の効力の停止期間中に運転を行えば無免許運転となり免許が取り消されることを十分知つていたにもかかわらず、上記行政処分の日から半月余りの短期間に、連続して本件各非行を敢行したものであり、しかも、そのころ、前件である赤信号無視の非行につき家庭裁判所調査官による面接調査を受けており、第二のとおり運転によつて重大な結果を招きすらしたのであるから、これらを機会に改めて反省し、以後の運転をやめるべきであるのに、続けて運転に及んでいるものであつて、違反歴、違反態様はともにはなはだ良くなく、以上によれば、少年は規範意識が乏しく、交通法規軽視の傾向がかなり著しいといわなければならない。そして、家庭裁判所では、少年の交通非行に対する保護的措置として、これまでに、自庁における講習と審判とにより、あるいは警告書の送付により、違反の危険性を学習させるとともに安全運転に対する自覚を高めるよう促し指導教育してきており(なお、少年は前件である赤信号無視の非行につき本件非行後の昭和五八年五月一七日に交通短期保護観察に付されているが、これは少年が調査時にも審判時にも本件非行を申告せず裁判所においてこれを認知できなかつたことによるものである。)、以上の少年の交通非行歴と処遇歴に前記本件事案の重大性を併せ考えると、本件非行については、この際刑事処分をもつてのぞむのが相当であるといえなくもない。

しかしながら、少年には、上記交通非行を犯す以前に、共犯者とともに原動機付自転車窃取した一般非行歴が二件あり(いずれも家庭裁判所により保護的措置がとられたうえ審判不開始及び不処分となつている。)、また、高校中退後職業への定着性が悪く、本年三月以降は全く就業していない中で本件非行が行われ、しかも、本件以外に、本年二月二七日及び五月八日にも暴走に参加し、六月一八日には、遊び仲間とともに、駐車中の普通車からガソリンやステレオカーコンポを窃取した余罪があることを考えると、少年の非行性を交通の面においてのみとらえるのは適切ではなく、むしろ、少年の交通非行は少年のもつ一般非行性が車という媒介を通して交通の場面でたまたま現われたにすぎないとみるべきで、少年に対する処遇を考えるには、少年の一般非行性に目を向ける必要がある。

そこで、少年の一般非行性についてみるに、少年調査票、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書及び審判の結果によると、少年は幼いころから外向的で活発な性格で自己主張も強く、内向的で親の言うことに素直に従う兄とは性格的に正反対であつたため、とかく兄よりも小言や叱責を与えられることが多く、家族に対し、自分はいつも兄と比較され冷遇されてきたという被害感、疎外感を抱き、かかる家族に対する甘えを伴つた反発から、支配欲、承認欲求を充たすため、不良仲間の先頭に立つて、単車盗やシンナー吸引にはじまる逸脱行為を繰り返してきたものであり、また、親の側でも、このような少年の逸脱行為をとかく不良仲間のせいにして、少年の真の問題性を直視しようとせず、適切な指導を欠いたため、少年は十分な社会性を身につけないままに成長し、職業に対する考えも極めて幼稚で未熟なものにすぎず、それが、他と協調せず自己主張の強い少年の性格とあいまつて、職場でのトラブルを惹き起こし、ここでも充たせぬ支配欲・承認欲求のはけ口を求め、ますます少年の不良交友を高め、少年を非行に走らせる結果となつていることが認められる。

そうすると、少年にとつて現在もつとも必要なことは、他と協調しようとせず、自己本位で他人に逆らうことで自己主張しようとする少年の性格上の問題点を矯正し、強い働きかけのもとに社会性や勤労意欲を培わせ、自己統制力を養うことであつて、この面での矯正がなされないと、少年は将来再び非行を犯すおそれなしとしないうえ、少年自身にも、今回逮捕され観護措置に至つたことで、過去の非行を反省し自己を見詰め直そうとする構えがみられるので、適切な保護処分によつて更生させるのが相当であり、矯正の可能性もあると認められる。そして、少年の過去の非行歴と処遇歴、本件事案の内容程度及び少年の非行性を育てる一因となつた家庭内の事情、親の側の要素が現在必ずしも改善除去されているとはいい難いことに鑑みれば、少年を少年院に送致して、厳しい集団生活の中で教育を施す必要があるが、少年の性格上の偏りはさほどみられず、父親との関係も幼稚な甘えを伴つた反発で、深刻な葛藤を呈しているわけでもないため、短期処遇で十分に教育効果が得られると考える。

よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 石田裕一)

〔参考〕 少年調査票〈省略〉

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